teto「手」

手のジャケット写真
teto「手」(2018)

2018年9月26日発売、1stフルアルバム。

スポンサーリンク
レクタングル広告大

感想

ロックバンドが真っ当にロックアルバムを作ったというのが、今作を通しで聴いた感想。

「ロック」という言葉を使ったけど、正直たくさんのロックバンドと呼ばれているバンドの音楽を聴いた今でも、「ロック」というものが何なのかはっきりと分かっていない。

ただ、自分の中で「ロック」たらしめる要素は一応あって。

それが「衝動」が感じられるか否かってことなんです。

「衝動」という言葉自体が曖昧なもので言語化しにくいものではあるけど、この「手」というアルバムを聴いて私は「衝動」を感じた、だから真っ当なロックアルバムだなと。

銀杏BOYZに影響を受けたとされる激しいパンクサウンドに、The Mirrazなんかを思い出させる早口でまくし立てるボーカルが「衝動」を感じた要因ではあるけど、やっぱり歌詞の存在も大きいかな。

社会に対するやり場のない怒りや、どん詰まりの現実に対して感じる無力さ。

歌われていることは共感できるところもあるし「ちょっと違うな・・・」と思うところもあるけど、アルバム終盤で渦巻いた感情を受け止めて、生きることを肯定したのは断然支持したい。

生きてこそだと、やっぱり思うので。

話が脱線しつつありますけど、かっこいいバンドだと思います。

ヒップホップ的な言語感覚を持ったボーカル小池のメロディセンスに惹かれました。

1stフルにして、tetoというバンドの魅力が充分すぎるほど詰まった快作かと。

ちなみに「andymoriっぽい」とYouTubeのコメント欄で見かけたけど、そんな似てるかな?

andymoriはフォークにルーツがあって、tetoはパンクにルーツがあるから、サウンド聴く比べると全然違う気がするけど。
(曲によっては、tetoもフォークっぽい曲もあるけどさ)

全曲感想

1.hadaka no osama

「リスナーに衝撃を与えてやる」っていう意思がひしひしと感じられる銀杏BOYZ風パンクロック。

激しいサウンドに切迫したボーカルと、中盤のメルヘンチックな展開との対比に彼らの異様さを感じる。

タイトルは、アンデルセンの童話「裸の王様」からか。

「似非」裁判官が有罪を下したとしても、有罪率99.9%と言われる日本の司法制度であれば、正真正銘の裁判官が同一ケースを扱ったとしても有罪になるだろう。例え、無罪(冤罪)の場合でもほとんどのケースは。

「似非」革命家が流行らす風潮なんてのは、その革命家にとって都合の良いもので実態は無いもの。信念も何もない。

本当の内なる思いを言わない人達、いわば「本音と建前」でいう「建前」で武装した人達を揶揄した歌詞かな。

2.高層ビルと人工衛星


Aメロ「she see sea」の部分が印象的、激しいサウンドだけでなく印象的なメロディが書けるバンドだということが分かる。

聴いていると歌詞で歌っている内容が脳内で映像化される。

夢破れた20代前半。そんな自分を見下すように立ち並ぶ都会の高層ビル。思い出す過去の何もかも順調だった頃の自分。

歌っていること自体は目新しくないけど、使っているワードのセンスからだろうか陳腐な感じがしない。

岡崎京子「Pink」を登場させるというサブカルへの目配せも中々憎い。

3.トリーバーチの靴

足音をサンプリングしたと思われるイントロ。

引き続いてのパンクロックだが、ギターのアルペジオ一本で歌を目立たせたりと工夫が垣間見える。

「何にもない」という空虚さ。その空虚を埋めるのは「トリーバーチの靴」でも「形だけの彼氏」でもなく「あなただけ」。

女性を主人公にした歌詞も書けるのかと感心した。

4.奴隷の唄

The Mirrazっぽい早口歌唱。他の曲でも見られるけど、影響を受けてたりするのかな。

サビ頭の「奴隷は氷河期の~」で「ドレミファソラシド」の音階を使っていて、歌詞の最後に「ドレミファソラシド」を登場させるという仕掛けが組み込まれている。

現代日本に「奴隷」と呼ばれる人はいない(はずだ)けど、劣悪な環境で働く一部の労働者は奴隷的な扱いを受けてたりするんだろう。

この歌詞に出てくる「奴隷」と呼ばれてる人は、思考停止に陥ってる感じがしなくて、わりと前向きな感じがする。

そこら辺に希望を感じるし、激しいだけじゃないこのバンドが持つ優しさなんかを感じた。

5.市の商人たち

このアルバムで最も短い、わずか90秒で終わる曲。

「市の商人」=「死の商人」というダブルミーニング。

「奴隷の唄」から「市の商人たち」ということで、繋がりを感じなくはない。

損得勘定で動く人間を強烈に皮肉る歌詞。

6.洗脳教育

パンクロックというより、ハードコアと言った方が近そうな強烈なサウンドの曲。

ボーカルの歌い方もぶっきらぼうで、やり場のない怒りみたいなものを感じさせる。

「洗脳教育」という過激なタイトルに何を思うか。

“すべての教育は「洗脳」である”っていう某著名人が出した本があったり、日本の義務教育は「洗脳」だと言う論調も少なくない。

元々義務教育は「工場労働者」を育成するために採用されたモノだから、現代に合ってないところは実際あると思う。

その是非は音楽とは離れてしまうので、この辺で止めておこう。

しかし、こういう歌を作るということは「あんまり学校に良い思い出がないんだろうな」とは思いました。

7.種まく人

やたら大きいアコギの音と「ラララ」のコーラスが印象的な曲。

死ぬ間際に、今までの人生を振り返るような歌詞。

これまでの曲は「怒り」の感情を強く感じたが、この曲は少し違った哀愁のようなものを感じる。

8.散々愛燦燦

これまた今までの楽曲とは違う感じ、軽快なリズムは楽しげ。

「高層ビルと人工衛星」にも通ずる、ボーカル小池のパーソナル部分が出た歌詞だと思う。

どん詰まりの現実で何をやっても上手くいかない空虚さ。

ポップな感じだけど、感傷的な気持ちになる不思議な曲。

9.マーブルケイブの中へ

繰り返されるクリーントーンのギターが耳に残る。

メロディと歌詞の印象と相まってか、どこか中世ヨーロッパ風の雰囲気を感じた。

「マーブルケイブ」はチリにある大理石の洞窟。写真で見ると大理石が青く光っていて、凄く神秘的な場所だなと。

歌詞は「ミニー」と「僕」の物語だが、元ネタがあるのだろうか。

10.Pain Pain Pain

曲が始まったと同時に聴けてくるマシンガンのような言葉の数々に圧倒される。

進んでは戻るような光の見えない現実。何をしても満たされることがないという空虚さ。

そんな中、唯一のより所と呼べる音楽の存在。
(この曲で言えば「イヤホンで流れる void」、voidはワシントンで1980年結成され、83年に解散したハードコアバンド)

彼らが初めて世に出した曲(今作に入っているのは再収録版)ということがよく分かる、とても彼ららしい曲だと思った。

11.拝啓

シングル「忘れた」に収録されていた曲。シングルが発売された時に良い曲だと思ったが、やはり今作を通しても屈指の出来だなと。

The Mirraz「ラストナンバー」のイントロっぽいイントロから、ラストまで異様なテンションを保ったまま疾走し続ける。

拝啓、今まで出会えた人達へ
刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くていいから息をし続けてくれないか

「拝啓」

2018年に聴いた曲の中でも、特に印象に残ったフレーズ。

やっぱり、生きてこそだよな。

12.溶けた銃口

彼らにしてはシンプルなアレンジで、歌を引き立たせることを意識しているなという印象。

1stミニアルバム「dystopia」収録曲「9月になること」の続編として作られた曲らしい。

「9月になること」の歌詞にも出てきた「溶けた銃口」=「変わってしまい元に戻らないもの」。

一方、変わらないものとして歌われる「あなた」への思い。

そして、もう一つ変わらず時を超えた存在として描かれる「音楽(有線となって街の隅から聞こえた7インチ)」。

彼らの音楽に対する深い愛を感じられる曲だと思ったけど、考えすぎだろうか。

13.夢見心地で

この曲も彼らにしては分かりやすい曲かと、珍しくギターソロがあったりなんかして。

メロディも拓けてるし、アルバム中盤の鬱屈とした雰囲気とは違った側面を見せる。

「裸のままあなたに~」のフレーズは「hadaka no osama」の「裸の心臓を見せ合おう」に通ずるフレーズ。

曝け出そうぜ感(裸になろう的な感じ)は、このアルバム全体を覆っている雰囲気ですね。

14.忘れた

フォーキーなメロディで紡がれる私小説風の歌詞。

所々で入るピアノ(オルガン?)の音が感傷的な気持ちにさせる。

忘れたい過去を思い出して、そしてまた忘れて、思い出しての繰り返し。

全部忘れたと思ったときに、忘れたくないと思ったこと。

その忘れたくない思いを抱いて生きていく・・・。

ありがちと言えばありがちな着地点だけど、アルバム終盤で歌われるとクライマックス感があってグッとくる。

15.手

軽快なギターリフとお得意の早口歌唱、アルバム前半の雰囲気とはどこか違う明るい雰囲気。

「過去」、「理想」、「現実」、そういった自分を振り回すものを受け止めながら「まだ見ぬ時代に会いたい」と前を向く。

ラストの「辛うじてまだ自由に動くこの手で」の「辛うじて」の部分が良いなと。

傷ついてもさ、まだ手動くじゃんと。

「拝啓」でも、「”浅くていいから”息を~」って歌っていたのと同様、生きてこその精神。

このバンドが持つ「苦しい現実でも生に対して執着する」という姿勢に、心を揺さぶられた。

スポンサーリンク
レクタングル広告大
レクタングル広告大

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする