ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソルファ」(2004)
2004年10月20日発売、2ndフルアルバム。
※2016年に再録版が発売されていますが、2004年に発売した「ソルファ」の感想を書いてます。
感想
バンド初のオリコンチャート1位に、累計売上60万枚と、滅茶苦茶売れたアルバム。
でも、そういう前評判無しで聴くと、よくそんなに売れたなっていう風に思うアルバムでもある。
決して、アルバムの出来が悪いわけではなくて、
「当時、アジカンの新譜を期待していた人が望んでいたアルバムだったのかな?」
っていう疑問があるわけです。
確かに、「リライト」、「ループ&ループ」、「君の街まで」っていう、現在でも彼らの代表曲となってる曲は収録されている。
しかし、アルバム曲はどれも比較的落ち着いた印象の曲で、どちらかというと「実験的」な曲が並んでいて「売れ線にはならねえぞ」みたいなメンバーの気概を感じるのだ。
ただ、結果的に「ソルファ」は売れた。
リアルタイムで聴いていない自分が思うのは、それだけ当時のアジカンに対する注目が凄かったんだなと。
どんな曲が収録されていようと、「アジカンをいま聴いていないのはヤバイ」みたいな共通認識が出来上がっていたんじゃないかなと想像している。
個人的な評価としては、評価が難しいアルバム。
勢いに溢れていた「君繋ファイブエム」と、今作で培った実験的要素を詰め込んだ次作「ファンクラブ」の狭間で生れた、どっちつかずの作品って感じですかね・・・。
全曲感想
1.振動覚
タイプで言うと、前作「君繋ファイブエム」収録曲「フラッシュバック」の役割を果たしている。
この曲をアルバムのどこに置くかって言ったら、一曲目しかないでしょていう感じ。
ギターの音がちょっと丸くなったかなっていうのが「フラッシュバック」との違いかな。
タイトル「振動覚」の意味は「触れている物の振動を感じる感覚」とのこと、歌詞を読むにギターの弦から伝わる振動か。
「永遠の生命=Live Forever」ということで、ルーツであるOASISへのリスペクトも歌詞には込められている。
2.リライト
この曲は凄く変な曲だと思う。
よくこんな前奏が長くて、間奏も長い曲が売れたなと。
ハガレンすげーなと思っちゃうわけですよ。
ただ、サビの駆け上がっていくメロディはいつ聴いてもテンション上がる。
「抽象性ここに極まる」って感じの歌詞だけど、本人曰く「コピーコントロールCD」1について歌った曲だという。
当時若手だった彼らが「コピーコントロールCD」に対して物言うことが出来ず、その鬱憤を歌に込めた結果「消してーーー」が生まれた。
3.君の街まで
この曲はギターの音が綺麗で、メロディもサビで裏声使って綺麗に揃えていて、アジカンにこういう曲やられたら他のバンドはたまらないんじゃないかと。
構成でいうと、最後の部分に今まで使ってこなかった歌メロが出てくるっていうところが面白いなと思ったりする。
この曲の歌詞で好きなのは、彼ららしい繊細さを節々に感じるところ。
「心細さ」とか「切なさ」「悲しみ」といった比較的マイナスのワードを抱えて、「君の街まで飛んでいきたい」と歌う。
「そんな感情持って来ても困るよ」と「君」に言われそうな気はするけど、こういう気持ちも受け止めてほしいという願い。
「君繋ファイブエム」でも歌ってきた、「相手に理解してほしいという希望」をこの曲でも引き続き歌っている。
4.マイワールド
パワーポップ的なアプローチの曲なのに、曲全体にどこか憂いの雰囲気があるのが印象的。
あと個人的には、リードギター喜多のコーラスが上手いんだなーってことに気づけた曲。
タイトルの「マイワールド」と、歌詞の「廻る」をかけて歌っているのが特徴的だ。
「透明な幻想」って歌詞がアジカンらしい、「幻想」自体消えて無くなりそうなのに、それが「透明」だと。
あまりにも淡い期待を歌っている。
5.夜の向こう
前曲の「マイワールド」とタイプは似てるかなって思ったけど、この曲はボ-カルの歌い方に「悲しさ」を感じた。
歌詞は前半部分は鬱屈な感じだけど、段々と光が差していくところに希望がある。
6.ラストシーン
ひんやりとした質感のギターがとても印象的で、夜の風景が思い浮かぶ曲。
聞こえるか聞こえないかぐらいのコーラスがいい味出してる。
夜の風景と書いたけど、歌詞を読むと「夜の線路沿いの風景」が正しい。
前曲「夜の向こう」で希望があると言ったけど、この曲は絶望を感じる。
曲名が「ラストシーン」ですからね、なんの「ラスト」なのかって深読みしたくなる歌詞。
7.サイレン
聴いて思うのは「君という花」という曲の後に「よくシングルで切ったな」と、すげー勇気だなって思うわけです。
当時アジカンに期待されていたものとは全く違うタイプの曲だと思うんですよ、とても個性的で構成的。
「サイレン」をシングルで発売したことで「アジカンは普通のバンドとちょっと違うぞ」っていうのを見せつけることに成功したんだなと。
「サイレン」のカップリング曲に「サイレン#」という曲が収録されていて、それぞれ同じシーンを男女の目線から歌った曲となっている。
「余命わずかな女性」を歌詞から連想できて、こういう「頭の中に物語が想像出来る歌詞」も書けるのかと驚いた。
8.Re:Re:
「サイレン」の後だから、めっちゃポップに聞こえるけど、この曲も「リライト」同様変な曲だ。
Aメロとサビの繰り返しで進行して、ラストはAメロの変形で締めるという歌メロの展開、一筋縄ではいかない。
タイトルが「Re:Re:」(読み方は、アールイーアールイー)ということで、ある一定の世代より下は意味が分からない曲名かもしれない。2
「ラストシーン」、「サイレン」ともに線路沿いをテーマにした曲3なので、「Re:Re:」も「高架下」というフレーズで、歌詞のテーマを繋げている。
9.24時
この曲はどちらかと言うと、前作の「君繋ファイブエム」に入ってそうなギターの音作り。
わかりやすく疾走してる曲ではあるけど、この曲もなんだか憂いを感じるのが不思議だ。
「マイワールド」と同様「縁」という単語が出てきたり、「夜の向こう」、「ラストシーン」にも通ずる夜の描写があったりと、「ソルファ」収録アルバム曲の総決算した歌詞になっている。
10.真夜中と真昼の夢
「ラストシーン」ほど、ギターの音色に冷たさは感じないんだけど、決して暖かくはないという絶妙な塩梅。
メロディも明るいんだか、暗いんだかよくわからない感じで、とても幻想的な曲。
また「夜」をテーマにした曲ということで、「ソルファ」制作時の心境が明るくはなかったんだなと想像出来る。
「真夜中」に夢を見ているのは”自分”で、「真昼」に夢を見ているのは”君”ということか、そうであれば「真昼」に寝ている”君”の状態が想像出来たり。
なんとなく、「サイレン」に通じるテーマの歌詞なのかなと思った。
11.海岸通り
アコースティックギターを使った曲は、アジカンでは初めてかな。
リードギターのフレーズが浜辺に押し寄せる波のような雰囲気があって、曲名通り海岸沿いを歩きながら聴きたいなと思ったり。
これまで「ソルファ」に収録されてきた曲のような鬱屈さはない。
「春」や「桜」という単語が、曲を包む優しい雰囲気を作っているんだと思う。
12.ループ&ループ
「ループ&ループ」はほんと名曲だと思う。
アジカンがポップに振り切ったら、これほど良質なポップソングはできるのかと驚いた。
イントロのギターリフをアウトロでも全く同じように使っていて、それこそ「ループ」できそうだなーって思ったり。
つまりエンド&スタート
積み上げる弱い魔法「ループ&ループ」
この曲の歌詞で好きなのは「弱い」魔法ってフレーズ。
「音楽は魔法なのか? 魔法じゃないのか?」
みたいな論争を定期的に、SNSで見かける。
個人的見解は「人による」に尽きるかなと。
魔法になる人もいれば、ならない人もいる。
つまりは、それぐらい音楽は「弱い」ものなんだ。
「ループ&ループ」は「音楽が魔法か論争」について歌った曲でないけど、「積み上げる弱い魔法」というフレーズから感じる「現実主義的な側面」と「わずかに込める理想」のバランス感覚。
そこに、ASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンドの真面目さを感じて「良いバンドだなー」と思ってしまう。